退職金の財産分与
目次
●退職金は財産分与の対象となるか
・退職金が既に支払われている場合
財産分与の基準時(多くの場合は別居時)に、退職金が既に支払われている場合は、預金等になっていますから、別居時に残っている預金等が財産分与の対象となります。
ただし、後述のとおり、退職金のうち、婚姻前の労働に対応する部分は、特有財産として財産分与の対象にならないと考えられます。もっとも、退職金が支払われたのが別居よりかなり前であり、退職金が入金された後、預金口座から出金と入金を繰り返して共有財産と混ざっている場合や、他の金融資産に変わっているという場合は、別居時に残っている財産のうち、どの部分が特有財産なのかが争いになることがあります。そのような場合は、口座の取引履歴を開示して、どの部分が特有財産なのかを丁寧に主張、立証することが求められることがあります。
・退職金がまだ支払われていない場合
将来給付される予定の退職金が財産分与の対象になるかが問題となりますが、退職金は賃金の後払い的性質を有することから、婚姻後の労働に対応する部分は、対象となると考えられています。
●夫による「退職金は確実に支払われるとは限らないというのではないか」という主張に対して
多くの事案では、退職金の金額は夫の方が多いですが、そのようなケースで、夫側から、退職金は確実に支払われるとは限らないから財産分与の対象とすべきでないという主張がされることがあります。このような主張に対して、妻はどう対応したらよいでしょうか。
たしかに、勤務先の倒産や懲戒解雇といった理由により、退職金が支払われないことはあり得ます。以前は、特に退職金が支払われるまでの期間が長い(10年以上)場合には、財産分与の対象としないという考え方も有力でした。しかし、現在の実務では、退職金が支払われない蓋然性が高い場合を除き、財産分与の対象となるとするのが一般的です。退職金が賃金の後払い的性質を有することからすれば、当然のことと考えられます。
当事務所で取り扱ったケースでも、最近は、退職金を財産分与の対象とすると主張して、結果として否定されたケースはほとんどありません。勤務先が倒産する蓋然性が高いことが立証されたというケースはありませんし、実際、退職金を財産分与の対象としておきながら、退職金を受け取れなかったケースはないのではないかと推測しています。なお、離婚後に、懲戒解雇を理由に退職金が支払われないということも考えられますが、そのようないわば自業自得による場合は、考慮する必要がないと考えられています。現実的な交渉の場面を想像してみても、「おれは将来懲戒解雇されるかもしれず、その蓋然性が高いから、退職金を財産分与の対象とすべきじゃない」と主張する人はいないと思います。
●財産分与の対象となる退職金の算定方法
・退職金が既に支払われている場合
退職金が既に支払われている場合は、実際に支払われた退職金のうち、婚姻前の労働に対
応する部分を控除します。具体的な計算式は、次のとおりです。実際には、別居時に残っている預金等が財産分与の対象となり、退職金のうち婚姻前労働分を控除するとの主張、立証が簡単でないケースがあるのは、前述のとおりです。
実際に支払われた退職金×婚姻から退職までの期間/就職から退職までの期間
・退職金がまだ支払われていない場合
退職金がまだ支払われていない場合は、別居時に自己都合退職した場合の金額とする考え方と、将来退職する時に支払われる予定の退職金額とする考え方があります。
実際の実務では、前者の別居時に自己都合退職した場合の金額とするケースが多いように思われます(逆に、この主張が否定されることもほとんどありません)。この場合の具体的な計算式は、次のとおりです。
別居時に自己都合退職した場合の退職金額
×婚姻から退職までの期間/就職から退職までの期間
定年退職までの期間が短い(5年以内)ケースでは、後者の将来退職する時に支払われる予定の退職金額とするケースも少なくないとされています。この場合、婚姻前労働分だけでなく、別居後労働分も当然控除することになります。また、将来受け取る予定のものを現在受け取ることになるので、中間利息の控除という計算が必要になります。中間利息の控除の計算は、かなり専門的な内容となりますので、弁護士に相談することをおすすめします。
●支払時期
以上のように財産分与の対象となる退職金額を計算したうえで、他の財産を含めて一覧表を作成し、トータルで財産分与金額を計算し、離婚時に支払うとするのが通常です。
もっとも、退職金は多額のことも多く、実際には受け取っていない退職金を含めて財産分与金額を算出した結果、どうしてもすぐに支払えないということがあり得ます。その場合に、多くは夫側から、退職金の支払時期を退職金を受け取った後としたいという主張がされることがあります。妻側としては、できるだけ避けたいところですが、どうしても払えないことが明らかで、退職までの期間がそれほど長くない場合には、公正証書や調停調書といった正式な書面を残したうえで、この主張を受け入れることも選択肢となります。

弁護士 松平幹生(神奈川県弁護士会所属)

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