離婚時の退職金は財産分与の対象?妻が知っておくべきポイントを弁護士が解説

「夫はまだ退職していないけれど、退職金も財産分与の対象になるのだろうか。」
「退職金について何も決めずに離婚したら、後から請求できるのだろうか。」

 

このような疑問や不安を抱えたまま、離婚を検討されている方は少なくありません。

 

退職金は、長年の勤務によって積み立てられた大切な財産です。勤務先や勤続年数によっては数百万円から数千万円になることもあり、離婚後の生活に大きな影響を与える場合があります。

 

一方で、退職金はまだ受け取っていないケースも多く、「将来のお金だから財産分与の対象にならないのでは」と誤解されることもあります。
しかし、現在の庭裁判所の実務では、基本的に退職前の退職金であっても財産分与の対象になると考えて差し支えありません。

 

退職金を財産分与の対象とする場合、勤務先に退職金制度があるかはもちろん、婚姻前から勤務している場合にどの部分が対象となるかといった点を考慮する必要がありますし、相手から退職金が支給されるとは限らないという反論がされることもあります。
そのため、十分な知識がないまま話し合いを進めると、本来受け取れるはずだった財産を見落としてしまうおそれもあります。

 

この記事では、退職金が財産分与の対象となる条件や計算方法、家庭裁判所の考え方、証拠として役立つ資料、離婚前に準備しておきたいことなどを、弁護士の視点からわかりやすく解説します。

 

目次

退職金は財産分与の対象になるか

退職金が財産分与の対象となる理由

結論として、退職金は財産分与の対象になることがあります。

 

退職金は、「給与の後払い」という性質を持つと考えられています。

そのため、婚姻期間中の勤務によって形成された部分については、夫婦が協力して築いた財産として財産分与の対象になります。

 

つまり、「まだ退職していないから対象外」というわけではありません。

 

実際の家庭裁判所でも、退職前の退職金を財産分与の対象として扱うケースは珍しくありません。

 

財産分与の対象となるのは婚姻期間に対応する部分だけ

退職金の全額が対象になるわけではありません。

 

対象になるのは、婚姻期間中かつ別居前に積み立てられたと評価できる部分だけです。
例えば、勤続年数が30年、婚姻から別居までの期間が20年であれば、退職金全体ではなく、20年分に相当する割合が財産分与の対象になります。

 

婚姻前に働いていた期間に対応する部分は、夫婦の協力で築いた財産ではありませんので、財産分与の対象とはされません。

 

財産分与の対象になる条件

①退職金制度があること

勤務先に退職金制度がなければそもそも退職金が発生しませんので、財産分与の対象となりようがないことは言うまでもありません。

 

退職金規程が整備されている会社や公務員の場合は、財産分与の対象になる可能性が高いといえます。

 

②退職金が支給される可能性が高いこと

家庭裁判所では、退職金を受け取る可能性も重要な判断要素になります。

 

例えば、
国家公務員
地方公務員
上場企業勤務
大企業勤務
であれば、退職金制度が安定しているため、対象になりやすい傾向があります。

 

一方、
経営状況が不安定な会社
制度変更が予定されている会社
では争いになることがあります。

 

ただ、現在の実務では、別居時点に自己都合退職した場合の退職金は、財産分与の対象とされるという考え方が支配的です。私の肌感覚ですが、20年前は、調停において、40代くらいだと、退職金が財産分与の対象となることは当たり前ではないという雰囲気があったように記憶しています。しかし、現在では、調停でも訴訟でも、裁判所側にはそういう雰囲気はなく、退職金は財産分与の対象となることが当然の前提で話は進みます。相手も、退職金が財産分与の対象となること自体を争うことは少なくなっているように感じます。「会社の業績が不安定なため財産分与が支給されない可能性が高い」ということを相手の方で立証しなければ、退職金は財産分与の対象とされるというのが、現在の実務感覚です。

 

退職金はどのように計算する?

基本は「別居時」を基準に考える

離婚事件では、財産分与の対象財産確定の基準日は別居開始日になることが一般的です。

そのため、退職金も、別居した日に自己都合退職したと仮定した金額を基準に算定されるケースが多いです。

 

これは、別居後は夫婦が協力して財産を形成しているとは言えないためです。

 

計算イメージ

一般的には、
自己都合退職時の退職金額
×
婚姻から別居までの期間に対応する割合
という考え方になります。

 

例えば、
自己都合退職金2,000万円
勤続30年
婚姻から別居までの期間20年
であれば、対象額は約1,333万円となります。

 

財産分与割合が原則2分の1であるため、受け取れる金額は約666万円となります。

 

定年が近い場合は計算方法が変わることもある

熟年離婚では、定年退職が目前であるケースがあります。

このような場合には、定年退職時の退職金を基準に計算する裁判例もあります。

 

もっとも、将来受け取る予定のお金を現在受け取ることになるため、中間利息を差し引いて調整されることがあります。

この点、財産分与の支払いを退職金支払い後とする場合は、中間利息控除は必要ありません。相手に資力がないという理由で、財産分与の支払いが退職金支払い後とされることもあります。受け取る側としてはできればすぐ支払ってもらいたいですが、まだ受け取ってないものから払えというのも酷な面があることから、支払時期が近ければ、退職金支払い後とするのが合理的なケースもあります。

 

よくある争点と夫側の反論

「まだ退職していないから対象にならない」

実際の相談でも最も多い反論です。

 

しかし、前述の通り、現在の家庭裁判所実務では、基本的に退職前でも財産分与の対象と判断されると考えて差し支えありません。

そのため、この主張だけで対象外になるわけではありません。

 

「会社が倒産するかもしれない」

将来には不確定要素があります。


しかし、単なる可能性だけでは、退職金をゼロと評価する理由にはなりません

 

一方で、勤務先の経営状況が著しく悪化しているなど、具体的な事情があれば考慮されることもあり得ます。ただ、これは、支払う側が立証する必要があります。

 

「退職金制度が変わる可能性がある」

制度変更の可能性だけでは、直ちに財産分与が否定されるわけではありません。

 

裁判所は、現時点で確認できる退職金規程や勤務実績などをもとに判断するのが一般的です。

 

事前に準備しておきたいこと

離婚時の退職金は金額が大きくなりやすいため、事前の準備が結果を左右することも少なくありません。


「別居してから考えよう」と思っていると、必要な資料を入手できず、不利な条件で話し合いを進めてしまうおそれがあります。

 

退職金制度を確認する

まず確認したいのは、配偶者の勤務先に退職金制度があるかどうかです。

 

次のような資料があれば、退職金の有無や見込み額を把握しやすくなります。
就業規則
退職金規程
給与明細
雇用契約書
人事通知書
退職金見込額証明書

 

これらを無断で持ち出すことは避けるべきですが、夫婦が通常管理している書類であれば、後日のためにコピーを保管しておくことが役立つ場合があります。

 

退職金以外の財産も把握する

退職金だけに目を向けるのではなく、財産全体を確認することも重要です。

 

特に、退職金類似の制度として、企業型DCや確定拠出年金があるかを把握しておくことは重要です。

それ以外の財産としては、次のようなものがあるので、参考にしてください。

預貯金
有価証券
不動産
保険の解約返戻金
自動車

 

退職金だけを請求しても、全体として不利な分け方になるケースもあるため、総合的な検討が必要です。

 

退職金の財産分与で役立つ証拠

退職金制度があることを把握している場合、退職金の金額がわかる資料は、相手に提出してもらうのが通常です。

別居時点の退職金の金額がわかる資料は、その相手本人でしか入手できませんから、本人が提出するのが合理的とされています。

相手が提出を渋った場合、こちらは勤務先に調査嘱託をすることが資料を入手できます。相手は、勤務先に裁判所から調査嘱託がされるのを避けたいので、自ら提出することがほとんどです。

以上の通り、資料は相手に提出してもらう場合がほとんどですが、参考のため、証拠となる資料を挙げておきます。

 

証拠として役立つ資料

資料 確認できる内容
退職金規程 支給条件や退職金の計算方法
就業規則 退職金制度の有無や支給条件
給与明細 勤務先や勤務状況の確認
源泉徴収票 年収や勤務先の確認
人事資料 勤続年数や役職の確認
退職金見込額証明書 将来受け取る予定の退職金額

 

相手が資料を開示しない場合の対応

実際の離婚事件では、「退職金の資料は渡さない」と言われることも珍しくありません。
しかし、前述の通り、家庭裁判所の手続の中で資料提出を求めたり、必要に応じて弁護士が調査嘱託することにより、入手できないということは考えにくいです。

調査嘱託については、専門的な知識が必要となりますので、弁護士へのご相談をおすすめします。

 

退職金の財産分与でやってはいけないこと

退職金をめぐる争いでは、焦って行動した結果、不利になるケースもあります。

 

無断で会社へ連絡する

夫の勤務先へ直接電話をしたり、退職金額を問い合わせたりすることはおすすめできません。
会社との関係が悪化し、交渉が難しくなる場合があります。

また、会社が個人情報を第三者へ開示することは通常ありません。

前述の通り、弁護士に依頼すれば、退職金の資料を入手できないということはまずありませんので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

 

安易に離婚届を提出する

離婚後も財産分与を請求できる場合はありますが、先に離婚すると資料収集や交渉が難しくなることがあります。
特に、財産内容が十分に把握できていない段階で離婚を急ぐことは避けた方がよいでしょう。

 

横浜で退職金の財産分与に悩んだら弁護士へ相談を

横浜家庭裁判所での手続の流れ

横浜市や神奈川県内で離婚問題を抱えている方も、基本的な流れは全国共通です。
ただし、実際の手続は横浜家庭裁判所で進むことが多くなります。

 

一般的な流れは次のとおりです。
離婚に向けた協議をする
合意できなければ離婚調停を申し立てる
調停でもまとまらなければ離婚訴訟へ進む
財産分与について裁判所が判断する

 

調停では調停委員が間に入り、双方の意見を整理しながら合意を目指します。
一方、訴訟では提出された証拠をもとに裁判所が判断します。

 

そのため、退職金についても「対象になる」と主張するだけでなく、資料や計算根拠を示すことが重要になります。

 

弁護士へ早めに相談するメリット

退職金は、離婚時の財産の中でも評価が難しいものの一つです。
勤務先の制度や退職時期、婚姻期間などによって結論が変わることもあります。
そのため、早めに弁護士へ相談することで、次のようなメリットがあります。

 

財産分与の対象となる範囲を整理できる
必要な証拠を早い段階で把握できる
相手との交渉を任せられる
調停や訴訟を見据えた準備ができる
不利な内容で合意するリスクを減らせる

 

実際には、「もっと早く相談していれば証拠を確保できたのに」というケースも少なくありません。
退職金は金額が大きいため、早期の相談が結果に大きく影響することがあります。

 

よくある質問

夫がまだ40代ですが、退職金は対象になりますか?

退職金制度があり、将来支給される可能性が高い場合は、定年まで期間があっても対象になる可能性が高いと言えます。

 

公務員の場合はどうなりますか?

はい。
公務員はむしろ民間企業より退職金制度が整備されているため、財産分与の対象となる可能性が高いと言えます。

 

双方に退職金がある場合はどうなりますか?

夫婦双方に退職金がある場合は、それぞれについて婚姻期間に対応する部分を算定し、財産全体を踏まえて分与額を決めることになります。

 

まとめ

退職金は、まだ支給されていなくても財産分与の対象となる場合があります。
もっとも、常に退職金が対象になるわけではありませんし、金額の計算も必要となります。
勤務先の制度や支給の可能性、婚姻期間など、さまざまな事情を踏まえて判断されます。


また、退職金は数百万円から数千万円に及ぶこともあり、離婚後の生活に大きな影響を与えます。
そのため、離婚を決意した段階で必要な資料を整理し、財産全体を把握したうえで進めることが重要です。

 

横浜・神奈川県で離婚や財産分与にお悩みの方へ

退職金の財産分与は、法律だけでなく家庭裁判所の実務や証拠の集め方も結果に大きく影響します。
相手が資料を開示しない場合や、退職金が対象になるか判断に迷う場合でも、弁護士に相談すれば適切な対応方法が見つかることがあります。

 

当事務所では、横浜・神奈川県で離婚問題に関するご相談を数多くお受けしています。
一人で悩み続けるよりも、まずは現在の状況を整理し、今後の見通しを確認することが大切です。
退職金を含めた財産分与で不利益を受けないためにも、離婚を決意したらできるだけ早い段階で弁護士へご相談ください。

 

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弁護士 松平幹生(神奈川県弁護士会所属)

当事務所は、離婚に特化し、離婚問題全般に力を入れていますが、中でも、モラルハラスメントの問題の解決に積極的に取り組んでいます。 離婚で相談にお越しになる方の中には、モラルハラスメントで苦しんでいる方が多くいらっしゃいますが、そのような方が、その苦しみから解放されて自由になるため、力になりたいと思っています。 当サイトにはじめてアクセスされた方はまずはこちらをお読みください。 弁護士紹介/ パートナーと離婚したい方へ/ パートナーに離婚したいと言われた方へ
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