不動産の財産分与

不動産の財産分与について述べます。

現金と違い、価値の評価が難しいうえ、住宅ローンの問題が絡むこともあり協議が複雑になることが多いです。
住宅ローンがない場合は、どちらかが居住し続けるか、売却して利益を二分するかすればよく、財産分与金額の計算も単純と言えます。

問題は、住宅ローンがある場合です。よく起こるのが次の3つの事例です。
イメージしやすくするため、夫が住宅と住宅ローンの名義人で、妻が自宅を出て夫が住み続けているものとします。

1つ目は、家を売却し、売却益を分ける場合です。
このときは、家を売却し、売却益から住宅ローン残高(及び売却にかかる諸経費)を差し引いた額が財産分与の対象となります。

別居後も夫が住宅ローンを支払っている場合は、売却益から「別居時」の住宅ローン残高を差し引いた金額の2分の1を妻が取得し、残りを夫が取得することになります。

このような計算をすることにより、別居後に夫が支払った住宅ローンの元金は、夫の手元に残ります。別居前の住宅ローンは夫婦で協力して2分の1ずつ支払ったと捉えますが、別居後の住宅ローンの支払いは夫のみで支払ったと捉えますので、このような計算をする必要があります。

厳密には、別居後の利息を夫のみで負担する計算となるという問題がありますが、この点が問題とされることはあまりありません(問題とされた場合の処理については、下記注を参照ください)。

※売却後もローンが残ってしまうことはレアですが(通常はマイナス分を負担しないと売却自体ができないため)、残ってしまう場合は、その負担についても決める必要が出てきます。

2つ目は、家は夫の名義のままで夫がそこに住み続け、妻に金銭を支払う場合です。
家は夫の名義のままで、夫が続けて残りの住宅ローンを支払い、夫がそこに住み続ける方法です。
この場合、不動産の評価額から住宅ローン残高を差し引いた額を財産分与の対象と考え、家を出て行く妻に金銭を分与します。

この場合の妻の取得金額は、売却の場合と同じで、評価額から「別居時」の住宅ローン残高を差し引いた金額の2分の1です。

注:この場合には、離婚後も住宅ローンの利息は当然夫が支払うことになります。では、別居から離婚までの住宅ローンの利息についてはどうするか。離婚後も住宅ローンの利息を支払うのが当然なのは、不動産を取得する夫が、住宅ローンを維持する必要があるからと考えられます(離婚の場面に限らず、不動産を購入する時、ローンで購入すれば利息の支払いが必要となり、一括で購入すれば利息は当然発生しません。夫が利息の発生を止めたければ、一括で返済してしまえばよいだけです)。とすれば、別居から離婚までの住宅ローンの利息は、不動産を取得する夫が支払うべきと考えられます。この場合に、夫から妻に対し、「別居から離婚までの利息を負担しろ」という主張が出ることはないように思われます。

不動産を売却する場合は、この理屈によれば、夫が利息を負担すべきことにはなると言えるかは、微妙です。別居から離婚までの間、夫が住んでいるのであれば、住宅ローンを維持する必要性があるのは夫と言えます。しかし、夫も売却を望んでいる場合に、不動産の売却には時間がかかるのが通常ですから、その間、どうしたって利息は発生せざるを得ません。「どうしたって売却までにかかる時間の利息」を、夫だけが負担すべきとは言いにくいものがあります。ただ、もう一つの理屈として、「住んでいる方が利息も負担すべきではないか」という考え方もできます。住宅ローンの利息が、居住の対価と言えるかというと、理論的には苦しいように思われます。理論上は、利息は平等に負担したうえで、実質的共有財産である不動産への居住の対価として賃料(ないし賃料相当損害金)を支払う必要があるかを問題にする方が問題の枠組みとして正しいと思われます。そう考えると、別居していても、夫婦の間では賃料は発生しないと考えられます。もっとも、理屈で考えるとこのようになりますが、実際には、「住んでいる方が利息も負担すべき」というのは、一般的な感覚として受け入れられやすいように思われます。そのため、売却のケースでも、夫が別居から離婚までの利息を負担することについて、あまり問題にされない(夫がその点について文句を言わない)のだと思われます。


3つ目は、妻が住み続けるが、名義とローンの返済は夫のままである場合です。
賃借権を設定して妻から家賃を取る方法や、使用借権を設定して妻に無料で住んでもらう方法などがあります。

3つ目の分与に伴う問題点として、夫が経済的にローンを支払えなくなったときに、妻が退去を迫られる可能性がある点が挙げられます。

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弁護士 松平幹生(神奈川県弁護士会所属)

当事務所は、離婚に特化し、離婚問題全般に力を入れていますが、中でも、モラルハラスメントの問題の解決に積極的に取り組んでいます。 離婚で相談にお越しになる方の中には、モラルハラスメントで苦しんでいる方が多くいらっしゃいますが、そのような方が、その苦しみから解放されて自由になるため、力になりたいと思っています。 当サイトにはじめてアクセスされた方はまずはこちらをお読みください。 弁護士紹介/ パートナーと離婚したい方へ/ パートナーに離婚したいと言われた方へ
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