離婚と氏
日本では、婚姻に際し、妻が夫の戸籍に入り、夫の氏になるケースが圧倒的に多いです。
もちろん逆もありますが、説明の都合上、そのようなケースを念頭に以下説明します。
そのようなケースでは、離婚するに際し、妻は、氏をどうするかを考える必要があります。
※婚姻の際に氏(名字)を改めなかった配偶者(上記ケースでは夫)は、離婚後も氏を変更することはなく、特にすることはありません。
婚姻の際に氏(名字)を改めた配偶者(上記例では妻)は、離婚により、民法上当然に婚姻前の氏に戻ります(復氏といいます)(民法767条1項・同771条)。
しかし、離婚から3か月以内に役所に届出をすれば、婚姻中に使用していた氏を名乗ることができます(民法767条2項、戸籍法77条の2)。これを、婚氏続称といいます。通常は、離婚届と一緒に届出をすることが多いです。
つまりは、離婚後3か月以内であれば、婚姻前・婚姻中どちらの氏を名乗るか選択することができるということです。
「婚氏続称したが婚姻前の氏に戻したい場合」、または「婚姻前の氏に戻り3か月以上経過した後に、婚姻時の氏に変更したい場合」は、家庭裁判所に「氏の変更許可の申立て」を行い、裁判所の許可を得る必要があります。(戸籍法107条1項)。
この場合、氏を変更するための「やむを得ない事由」が必要です。
「やむを得ない事由」とは、変更を認めなければ社会生活上困るような客観的な事情とされています。
氏は個人を識別する要素であるため、簡単に変更できてしまうと社会が混乱することから、要件は厳格になっているということです。
ただし、近年の裁判所の判断の傾向として、「婚氏続称したが婚姻前の氏に戻したい場合」については、本来は婚姻前の氏に戻るのが原則であり、氏の変更による混乱は少ないといった理由から、比較的認められやすくなっているようです。
「婚姻前の氏に戻り3か月以上経過した後に、婚姻時の氏に変更したい場合」においても、認められる場合もあります。
判例では、前夫の要請等により、離婚判決確定後法定期間内に婚氏続称の届出をすることができなかった妻が、従前の婚氏への氏の変更を申し立てた事案で、「婚姻期間中長期にわたって婚氏を称してきたことにより社会生活上すでにその婚氏によってのみその者の同一性が識別される状況になっている者が離婚し、復氏した場合には、離婚後余り日時が経過していない時期に婚氏に変更しても、呼称秩序に混乱が生ずる可能性は少ないので、「やむを得ない事由」を一般の場合よりゆるやかに解して差し支えない」と判断されました(東京高決平成元年2月15日家月41巻8号177頁)。
※離婚後の子の氏についてはこちらをクリックして、リンク先をご覧ください。
弁護士 松平幹生(神奈川県弁護士会所属)
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