「カウンセラーが語るモラルハラスメント―人生を自分の手に取りもどすためにできること」谷本惠美
この本は、心理カウンセラーである著者によって、「あなたは」と被害者に語りかけるような文体で書かれています。
おそらく多数の被害者の相談を受けたであろう著者が、被害者の置かれた状況を解説しています。
被害者には原因がないこと、加害者の行為の一つひとつをとれば暴力には見えなくても、繰り返されることは普通の状態ではないことなど、被害者の置かれた状況に理解を示すような言葉が一貫して書かれています。
自分自身の置かれた状況は本人が一番わかっているから、解説はいらないのではないかと思われるかもしれませんが、モラハラ被害者は自分自身がおかれた状況を正確に把握できていないことが多いので、「あなたはこういう状況に置かれていますよ」と解説することには意味があるのです。
全体の3分の2くらいのページ数を使い、モラハラ被害が始まり、被害者がそれに気付き、解決を模索するようになる心理的過程を丁寧に書いています。
そのうえで、解決の方法として、基本的に、相手と離れるという方法が書かれています。一応、モラハラ加害者と同居を続ける場合についても触れられていますが、ほんの少ししか書かれていません。
さらに、モラハラ加害者と離れた後の心理的なケアについても書かれています。このあたりは、被害者の心理そのものを問題にする心理カウンセラーだからこその部分だと感じます。離婚後のことは、弁護士はなかなか直接向き合う場面がありませんから、この本に書かれていることは非常に参考になります。
何でも配偶者のせいにするという加害者の性質について、自分の中の葛藤を他者に「投影」しているのだと、心理学用語を使って説明している点など、モラハラを深く理解する手助けになります。
私はよく、モラハラ加害者と被害者の関係はピーターパンとウェンディの関係に似ているという見方を引用しますが、その見方はこの本で知ったものです。
弁護士 松平幹生(神奈川県弁護士会所属)
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