「こころの暴力 夫婦という密室で―支配されないための11章」イザベル ナザル=アガ

 

アマゾンで「モラハラ」のキーワードで検索すると、「マニュピレーター」に関する本が出てきます。
マニュピレーターという言葉はあまり耳慣れない言葉ですが、「操る人」というような意味です。
このマニュピレーターは、モラハラ加害者そのものです。
この本にも、モラハラという言葉は出てきませんが、この本で問題にしているマニュピレーターの特徴は、モラハラ加害者とピッタリ一致します。

 

モラハラという言葉は、どちらかというと、被害の方に着目した言い方です。
これに対して、マニュピレーターは、モラハラをする加害者に着目したものです。
モラルハラスメントという状況では、被害者は普通の人で、加害者が普通ではないことから、加害者側に焦点をあてた方が、状況が理解しやすいと言えます。

 

今現在配偶者のモラハラで苦しんでいる人にとっては、「どうして相手がそのような理不尽な攻撃をしてくるのか」を理解するのに役立ちます
また、離婚を進める過程でも、モラハラ加害者は、その攻撃性を発揮します。
離婚の過程において、モラハラ加害者は、通常では理解できないような行動をとることがあります。
ただ単に交渉において強気であるとか、頑固だとか、そういうのとは一線を画した、通常の感覚では理解し難いようなおかしなこだわりを見せることがしばしばあります。
そういった行動のもとになる人格がどのようなものであるかを理解するのに、この本は役に立ちます。

 

モラルハラスメントは、被害者や、被害を受けている状況に着目しても、状況の理解はしにくい面があります。
被害者には原因がないからです。
モラハラ加害者の側が特徴的な人格をしていることから、モラハラ加害者に焦点をあてて、それを掘り下げた方が、深く理解できるし、分析もしやすいと思います。
この本も、加害者側に焦点をあてて分析することによって、かなり深い内容にまで到達しており、モラハラを深く理解するのに役立ちます

 

この本の中で私が秀逸な表現だと思ったのは、マニュピレーター(モラハラ加害者)は、自分の精神が生き延びるためには他人の価値を下げるのが欠かせない、それは、溺れかけた際に人の頭を押さえつけてでも生きて帰ろうとする人にたとえられる、という表現です。
私が多数のモラハラ加害者を分析して得た、モラハラ加害者が配偶者を攻撃する理由も、まさにこの通りで、モラハラ加害者は、配偶者を攻撃することによって優位性を確認する(コンプレックスなどがあるためにそうせずにはいられない)、というものです。
つまり、妻には悪い点はなく、ただ単に近くにいたから、頭を押さえつけられているだけだ、ということです。
他人を犠牲にしてでも自分の優位性を確認せずにはいられない人のたとえとして、溺れかけた人のたとえは、非常にわかりやすいと思います。

 

それから、マニュピレーター(モラハラ加害者)は、周りの人に、常に完璧でなければならず、決して意見を変えてはならないと思わせる、というのも、的を得てると思いました。
配偶者のモラハラに苦しんでいる人は、ちょっとした矛盾を突かれたりすることが多く、加害者と一緒にいると気が休まらず、一緒にリビングにいると針のむしろに座っているような気持ちになると思いますが、そのような心理状態をうまく言い表してると思いました。
配偶者のモラハラに苦しんでいる人が読めば、「そうそう!その通り!」と思う表現ではないかと思います。

 

それから、この本には、他の本ではあまり言及されていない、離婚時にマニュピレーター(モラハラ加害者)が子どもの親権を取ろうとする、ということにも言及されています。
実際には、モラハラ夫が本格的に親権を争うことは多くはないのですが、まれに、母親が親権者になるのが自然な状況にもかかわらず、夫が親権を主張し、「どうしてここまで親権にこだわるのだろうか」と思わされる事案があります。
この本には、マニュピレーター(モラハラ加害者)には、親権を主張することにより、配偶者に精神的な被害を与え続け、最後まで破壊し尽くす、というメリットがあると書かれています。
これは、その通りだと思います。
親権を主張するのは、配偶者に対する攻撃の一環ということです。

 

 

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弁護士 松平幹生(神奈川県弁護士会所属)

当事務所は、離婚に特化し、離婚問題全般に力を入れていますが、中でも、モラルハラスメントの問題の解決に積極的に取り組んでいます。 離婚で相談にお越しになる方の中には、モラルハラスメントで苦しんでいる方が多くいらっしゃいますが、そのような方が、その苦しみから解放されて自由になるため、力になりたいと思っています。 当サイトにはじめてアクセスされた方はまずはこちらをお読みください。 弁護士紹介/ パートナーと離婚したい方へ/ パートナーに離婚したいと言われた方へ
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