ジャイアンとのび太の関係で考えるとモラハラ状況がわかりやすい
目次
1 モラハラ状況は理解しにくい
モラハラ状況は、普通の人には理解しにくいです。
モラハラを受けている人は、どうして自分がこんなに苦しい状況に置かれているかわからないと感じますし、モラハラ加害者に対して「わけがわからない人物」という印象を持ちます。
このような状況を理解するのに、ジャイアンとのび太の関係で考えると、見えてくる部分があります。
2 一般的なモラハラのイメージ
一般的には、モラハラと言えば、夫は、妻に対して強い「不満」を抱き、激しく攻撃する、というイメージを持たれがちだと思います。
しかし、このイメージだと、別居後に夫が離婚に消極的な態度をとることが説明できません。
また、そもそも、客観的に見て、妻はそこまで悪いことをしていませんので、夫が妻を不満に思う理由が思い当たりません。
このことを、実際に相談に来た妻に聞いてみると、「おそらく、自分のこういう点が夫は気に入らないのだと思う。なぜなら、そういう言い方をするから」と説明します。
しかし、妻の説明する気に入らない点というのは、取るに足らない内容であり、そのことを理由に強い不満を抱くことはないだろう、と思わされる内容です。
ここで、モラハラ夫は、取るに足らない理由で妻に不満を抱くような異常な人格なのだ、という説明はあり得ます。
しかし、私が多くのモラハラ夫を見てきた経験からすると、そうではありません。
モラハラ夫は、妻に対して、不満を抱いていません。
当たり前です。
妻は客観的には悪いことをしていないのですから。
妻に対して不満を抱いていないからこそ、別居後、離婚に消極的な態度を取る場合が多いのです。
このように、妻に対して不満を抱いていない前提で考えると、妻が客観的に悪いことをしていない点、別居後に夫が離婚に消極的な態度を取る点と整合性がとれますから、この前提で間違いないと考えます。
問題は、不満を抱いてないのに、なぜ激しく攻撃するか、という点です。
これをイメージでわかりやすく説明できるのが、ジャイアンとのび太の関係です。
3 悪いことをしていないのに攻撃されるという点
ジャイアンは、のび太がそれほど悪いことをしていないのに、ボカスカと激しく殴りつけます。
その理由として、ジャイアンは、「ムシャクシャしてる」と言います。
これは何を表しているかというと、「のび太には原因がない」ということです。
ジャイアンは、ジャイアンの中の心理的な原因で、攻撃欲求を生じているのです。
そして、なぜのび太が標的にされるかというと、「弱そうに見え、手痛い反撃をされない相手」だからです。
ジャイアンは、いくらムシャクシャしてるといっても、出木杉君のことは殴りません。
それは、出木杉君が弱そうに見えないからです。
のび太のことをジャイアンは、明らかに軽く見ています。
下に見ています。
だから、殴りやすい、殴ることへの抵抗が少ないのです。
ジャイアンにとってのび太という存在は、軽いもので、のび太を支配したいとう欲は強いですが、のび太がいないと困るといった、強い執着は感じられません。
のび太を尊重してる様子も皆無です。
のび太のことを下に見ているから、支配欲が生まれます。
のび太のことが好きで尊重しているから支配したいわけではありません。
ここで、注意すべきは、のび太は、決して弱い人間ではないし、人としてダメなわけでもないという点です。
弱そうに見えるだけです。
わかりやすく言えば、弱そうに見えて、反撃もしてこないから、「なめられてる」という状態です。
ちなみに、ジャイアンが他人への攻撃欲求を生じるような心理的要因は何かですが、母親の存在があると思います。
作者がそこまでジャイアンの性格を深く掘り下げて書いているのだとすればすごいことだと思いますが、ジャイアンは、決して優等生ではなく、歌手になりたいのに歌がヘタで、劣等感を抱くような状況にあるうえ、厳しい母親から抑圧されていて、順風満帆の人生ではありません。
その辺りに心的要因がありそうだと言えます。
ただ、モラハラ加害者の心的要因を突き止めることが、特にモラハラの解決につながることはありませんので、重要ではありません。
重要なのは、被害者には原因がないという点です。
4 別居後も執拗に攻撃されると不安になる人が多いが、実際はそうではない点
モラハラ被害者の中には、別居後も執拗に攻撃を受けるのではないかと過大な不安を抱く人がいます。
このことが、別居や離婚を進めることを躊躇させる要因になっています。
しかし、実際に別居してみると、夫が攻撃性を継続するケースは皆無です。
攻撃するどころか、謝り、戻って来て欲しいという態度を取る人も多いです。
このことは、別居後の不安が大きい被害者に説明しても、なかなか理解できず、実際に別居してみるまで不安を解消することはできません。
ただ、被害者がそう思うのも無理はありません。
被害者からすれば、モラハラ夫は、自分に不満があり、憎くて攻撃してきてるようにしか見えないからです。
実際、モラハラ夫は、「お前のこういうところが悪いんだ」と言いますから、そう思わされるのも無理はありません。
ここでも、この状況をイメージで理解するのに、ジャイアンとのび太の関係を見るのがわかりやすいです。
のび太がジャイアンに対して、「野球チームを抜けたいんだ。なぜなら、いつも殴られて、君のことが嫌いだからだ」とある日打ち明けたとします。
ジャイアンはおそらく、そう言われても、それほど深刻に受け止めません。
「何言ってんだ、こいつ。おれのことが嫌い?おれ、そんな嫌われるようなことしたかな?」くらいの受け止め方だと思います。
のび太のことを軽く見ているので、ジャイアンにとっては深刻な話ではありません。
ただ、野球チームを抜けることは、弱いのび太が反抗してきたように感じて気に食わないし、自分の支配が弱まるような気がするので、「野球チームを抜けることは許さん」と言うと思います。
なぜそういう言い方をするかというと、そういう言い方をした結果、のび太がジャイアンの言いなりになり、野球チームから抜けなければ、自分の優位性を確認できて楽しいからです。
のび太のことを下に見ていますから、是非とものび太に野球チームにいて欲しいと思っているわけではありません。
のび太のことを下に見ているからこそ、このようなのび太をコントロールする言葉も簡単に口にできるのです。
では、のび太が、実際に、野球チームに姿を見せなくなったとしたら、どうでしょうか。
ジャイアンが、のび太が野球チームに姿を見せなくなったことを気に病み、四六時中のび太のことばかり考えて過ごすようになるとは思えません。
なぜなら、ジャイアンにとってのび太は下の存在だからです。
「野球チームに戻って来いよ」などと言って、支配を継続させようとする可能性は高いですが、のび太に対して、「野球チームを止めやがって。許せん」と強い感情を発するとは考えにくいです。
なぜなら、のび太のことを軽く見ているからです。
一方で、のび太に対して、「すぐに野球チームに戻って来ないと殴る」などと言って支配を継続させようとしながら、おそらくは、他の人達と野球をやって楽しみ、その間、のび太のことなど考えもしないと思います。
のび太は、ジャイアンのことが怖いので、「すぐに野球チームに戻って来ないと殴る」なんて言われたら生きた心地がせず、ジャイアンが今にも殴りに来るのではないかと不安になると思いますが、その頃ジャイアンは他のチームメイトと野球を楽しんでいます。
モラハラ妻がモラハラ夫から別居して離れた場合も、この状態と同じとは言いませんが、このようなジャイアンの心理状態は、モラハラ夫の心理状態に近いのではないかと思います。
下に見ているので、支配は継続したいし、婚姻チームを抜けるのは気に入らないが、かといって、もともと憎んでいたわけではないし、軽く見ていたので、強い感情を抱いて執着して攻撃することもない、という心理状態ではないかと考えられます。
もともと夫のことを怖いと思っていた妻からすれば、夫は妻に対して強く執着しているように感じられ、不安になりますが、実際は、軽い気持ちで支配を継続するような言葉を投げかけてくることはありますが、本心ではそこまで強く執着せず、夫はテレビを観るなどしてのほほんと暮らしていることが多いです。
5 離婚条件の争いでは攻撃性を発揮してくるので注意が必要
別居後、攻撃性を発揮することはないと説明しましたが、離婚の方向で進めることになった後、離婚条件の話になった時は、攻撃性とまでは言えないかもしれませんが、モラハラ夫らしい態度をとるため、離婚条件の話は簡単には進まない場合が多いです。
モラハラ夫らしい態度というのは、優位に立とうとして高圧的な態度に出るといった態度のことです。
ですから、やはり、モラハラ夫相手に離婚の話を進めるには、モラハラに精通した弁護士に相談するメリットが大きいと言えます。
6 まとめ
このように、モラハラ状況とジャイアンとのび太の関係は、軽く見てるから、攻撃したくなるし、支配もしたくなる、という点が共通しています。
そして、軽く見てる以上、別居後は、支配を継続しようとはするが、攻撃しようとはせず、妻がいなくなったことを四六時中悲しんで思い悩むほど妻に執着することもない、ということです。
仮に別居後に夫が「悲しくて死にそうだ」と言ったら、それは、「罪悪感を刺激して支配する」という支配を継続するための行動です。
また、離婚条件の話になったら、優位性を発揮しようとするため、攻撃的な態度をとることがある、ということです。
弁護士 松平幹生(神奈川県弁護士会所属)
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