「モラル・ハラスメント―人を傷つけずにはいられない」マリー=フランス・イルゴイエンヌ
フランスの精神科医が書いた、モラハラ分野における古典的文献です。
モラルハラスメントのウィキペディアによれば、モラルハラスメントは、この本の作者のイルゴイエンヌさんが提唱した言葉ということです。
イルゴイエンヌさんは、モラハラ加害者は「自己愛的変質者」であるとしています。
加害者は、自己の内心の葛藤を引き受けられず外部に向ける人、自分を守るために他人を破壊する人であるとしています。
このような説明を最初読んだ時は、「なるほど」と思いました。
モラハラの実態を見ていると、「なぜ加害者は、何も悪いことをしていない被害者に対して、ここまで酷いことをするのだろうか」という疑問を抱くようになります。
その疑問に対する回答の糸口をつかんだような気がしました。
「内心の葛藤を処理できずに他人に転嫁する」という説明は、他の本でも出てきますが、このような視点は、モラハラを理解するのに必要だと思います。
この本には、モラハラ加害者は「症状のない精神病者」だと考えられている、と記載されています。
このように、精神科医という専門家が、モラハラ加害者を特殊な存在と見て区別することは、非常に大事だと思います。
日本では、世間一般はもちろん、裁判所でさえ、モラハラ状況と夫婦喧嘩の区別がつかない人が多いです。
私から見れば明らかに違うのですが、その区別を理解しないと、なぜ被害者が離婚せざるを得ないほど苦しむのかが理解できません。
私は是非、離婚事件を扱う日本の裁判官全員に、このイルゴイエンヌさんの本を読んで欲しいと思っています。
そして、訴訟においてモラハラが離婚原因と認められるようになることを望んでいますし、そうなるように活動していきたいと思っています。
この本では、モラハラ加害者が自己愛的な人格を持つこと、ナルシストであることが、強調されています。
私は、モラハラ加害者は劣等感(コンプレックス)を持っており、それが原因で被害者を攻撃するという説明をすることがあります。
モラハラ加害者がナルシストであるということは、自分が抱いているセルフイメージと実際の自分とのギャップが大きいということです。
これは、見方を変えれば、実際の自分にコンプレックスを持っているとも言えます。
いずれにせよ、自分が成りたい自分、そうであって欲しい自分と、実際の自分との間に常に大きなギャップがあるということです。
そのようなギャップがある人がみんな、他人を攻撃するわけではありません。
モラハラ加害者になる人は、そのような自己の内心の葛藤を自分で処理できないという性質が加わります。
そのため、他者を破壊しようとする攻撃性として現れるということです。
なぜ自己の内心の葛藤を処理できないような性質が形成されるのかについては、この本にも明確な答えは書かれていません。
そのような人が存在することを前提として書かれています。
生育過程でそのような性質が形成されると思われますが、加害者は自分の問題を自覚しておらず、精神科医にかかることは基本的にないため、なぜそのような性質が形成されるのかについては、検証できないのだと思います。
私は、加害者には、生育過程で甘やかされた人が多いと感じていますが、検証はしておらず、仮説に過ぎません(逆に、厳しく育てられたという人も一部にいます。これらは正反対のように思えますが、歪んだ愛情で育てられたという意味では共通していると思います)。
この本はこのようにすばらしい本なのですが、分量が多いので、軽く読むのには適していません。
ただ、しっかり読めば、モラハラを深く理解するのに役立つことは間違いありません。
弁護士 松平幹生(神奈川県弁護士会所属)
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